2005/2/20 update

Project IDEA (Iron Deficiency Elimination Action)
多様な食物の摂取が困難な途上国では、気づかぬうちにビタミン、ミネラル類(微量栄養素)の摂取不足が起こります。鉄分は、健康に生活するために必要不可欠な栄養素ですが、欠乏すると特に子供の発育や知能の発達を妨げ、母子の健康にも深刻な悪影響を及ぼし、死亡率増加の原因ともなります。
更に、この欠乏症は、成人後も労働力の低下や人材の育成を妨げるなど、社会全体の生産性の低下を招き、貧困を助長させます。UN ACC/SCNの報告によれば、鉄欠乏から引き起こされる貧血症は、特に対策が遅れており、今なお35億人以上の心身の健全な発達を妨げています。
Project IDEAでは、それぞれの地域の食生活パターンに合わせて、市販されている主食や調味料に有効な鉄分を添加し、毎日の食事を通して欠乏栄養素を補給することにより、鉄欠乏性貧血症を予防する活動を続けています。

右図が現在の活動地域となります。


 中国では、ILSI Focal Point in China、中国疾病予防センター(CDC China)と共に研究を進めてきました。人口の70%が使用している醤油に鉄(NaFeEDTA)を強化し、通常の食事に取り入れたところ、男性女性を含むすべての年齢層において貧血症の顕著な改善が認められ、鉄強化醤油の有効性が確認されました。これらの成果を基に、GAIN(Global Alliance for Improved Nutrition)の支援を得て、2004年春から国策として活動が進んでいます。現在、11ヵ所の醤油工場にて鉄強化醤油が製造され、販売を始めました。導入先行地域として、貴州省と江蘇省ではベースライン調査が既に行われており、今後、効果の検証が行われます。さらに、より多くの人々に鉄強化醤油の効果が伝わるよう、メディアを通じた栄養教育を実施していきます。数年後には1億人以上が、鉄強化醤油プログラムの恩恵を受けることが期待されています。


 ベトナムでは、NIN(National Institute of Nutrition)と共に、プロジェクトを進めてきました。人口の70%が使用している魚醤に鉄(NaFeEDTA)を強化し、貯蔵・安定性試験及び味覚試験にて有効性を確認しました。2000年には、6ヶ月間の介入試験を実施し、鉄強化魚醤(10mg鉄/日)を規則的に消費することで、ベトナム人女性の貧血の有病率は、顕著に減少することが実証されました。
 また、2001年から、14,000人の農村地域の住民が、鉄強化魚醤を通常の食事に取り入れ、18ヶ月間の大規模介入試験が実施されました。農村地域を、二重盲件法に基づいた無作為抽出法により、村落ごとに2つのグループに分け、対象群(10村)には、鉄強化されていない魚醤を配布し、介入群(11村)には、aFeEDTAで強化された魚醤
(7.5mg Fe/日)を配布しました。約580人の女性(16-40歳)を対象とし、0、6、12、18ヵ月目に貧血症の改善度を評価しました。その結果、鉄強化魚醤摂取群では、貧血(Hb<120 g/L)の有病率は、24.7%から8.5%へと著しく低下し、貧血症が改善することが実証されました。また、鉄欠乏(SF<12μg/L)の有病率は、22.3%から4.0%へ低下しました。更に、貯蔵鉄の改善は、 12ヵ月目までに著しく認められ、12ヶ月以降は過剰な鉄の蓄積をもたらすことはなく、安全性も確認されました。
これらの研究成果を基に、貧血症のリスクのある貧しい人々がこの鉄強化魚醤を確実に摂取できるように、2005年春から国策として、GAINの支援を得、全国的な仕組みを作っていくことになりました。このプログラムは、5年計画で進められ、具体的には、@製造と物流、A品質保証、B栄養・健康教育、C進捗のモニタリングと栄養状態の評価から構成されます。

@ 製造と物流:貧血のリスクのある貧困層が消費している低・中級品の魚醤への鉄強化を進めます。初年度は、ベトナム北部と中部の大型2工場で鉄強化魚醤の製造を開始し、5年後には大手30工場へと拡大していきます。最終的には、低・中級品魚醤の80%を鉄強化します。
A 品質保証:保健省の管轄下で、工場並びに市場にて品質保証プログラムを展開していきます。ベトナムの食品産業においては、これまで不充分であったGMP( Good Manufacturing Practice)、 HACCP等の新しい手法を導入し、魚醤産業の品質全体の嵩上げを図っていきます。
B 栄養・健康教育:微量栄養素としての鉄が健康にとって大切であること、どのような食品から鉄分を摂取することができるか、鉄強化魚醤の効果などを、わかりやすくかつ広く伝えるために、栄養・教育プログラムを開発し、そのプログラムの普及に努めベトナム国民の栄養状態の向上を図ります。
C モニタリングと評価:鉄強化魚醤の導入が計画に沿って進むよう、活動の進捗情報をモニタリングする仕組みを開発・導入します。また、これらの活動が、ベトナム国民の貧血症の改善にどのように貢献しているかを評価するために、貧血の有病率並びに栄養摂取状況を定期的に調査していきます。
 ILSI CHP Japanでは、今後とも、魚醤工場の整備・製造管理(GMP)、品質保証(HACCP)プログラムの開発、栄養・健康教育、住民の健康調査の実施等に関して、日本を含む多国籍の専門家を派遣し、現地専門家の技術向上のための支援をしていきます。最も貧血の有病率の高い貧困層において鉄強化魚醤の摂取が定着すれば、数年後には、4200万人の貧血症が改善することが期待されています。



 フィリピンでは、FNRI(Food and Nutrition Research Institute)と共同で研究を進めています。アジアの主食である米に着目し、どのような鉄分を強化するのが最も適しているのかを調べるために、2003年12月から安定性試験と味覚試験を行ないました。総合評価により、@[イクストルーダ法(米粉に鉄分を混ぜ、米の形に成型する方法)・硫酸鉄]、A[イクストルーダ法・SunActive(微細ピロりん酸第二鉄)]、B[コーティング法(米の表面に鉄分をコーティングする方法)・SunActive]の3種類の鉄強化米が、有効であることが分かりました。
 2004年7月から、メトロ・マニラの小学校に通う6-8歳の貧血症の児童を対象として6ヶ月間の実証試験を行いました。約240名の貧血症の児童を、対照群及び3種類の鉄
強化米群の4グループに無作為に割付し、強化米群には、鉄強化米(プレミックス)を普通米とブレンドした鉄強化炊飯米(約10mg鉄/160g炊飯米)を、主菜・副菜と共に昼食に提供しました。0、3、6ヶ月目にヘモグロビン、血清フェリチン等を測定し、鉄強化米の日常摂取による貧血症の改善度を評価しています。この鉄強化米の摂取により貧血症が改善することが実証できれば、今後は多くの貧しい人々に食べてもらえるよう、国から鉄強化米を配給する全国的な仕組みづくりを行っていきます。


 カンボジアでは、魚醤が主たる調味料であるため、ベトナムで行なった魚醤への鉄強化技術が応用でき、これまでに蓄積した経験を活かすことができます。7月末にILSI CHP JapanとILSI Southeast Asia Region、ベトナムのNINと共にカンボジアを訪問し、調査(Feasibility study)を実施しました。また、8月には、カンボジア政府とGTZ(ドイツ国際機関)によるワークショップに出席し、鉄強化魚醤導入のためのプレゼンテーションを行いました。その結果、GTZと共同で、鉄強化魚醤(NaFeEDTA及び硫酸鉄)の実証介入試験をKampot市で実施することが合意され、2005年1月から6ヶ月の介入試験を実施しています。

乳幼児食の研究・開発
 6-24ヶ月の幼児は、発育や知能の発達において重要な時期にあるため、適切な栄養摂取が不可欠です。また、この時期は、普通食により主な栄養素が摂取できるようになるまでの移行期間でもあります。そのため、母乳栄養だけでは不足しがちな栄養素を補うために、並行して乳幼児食(Complementary Foods)を与える時期になります。現在、発展途上国で幼児に与えている乳幼児食では、成長のために必要な栄養素を補うことができないため、栄養不良や発育遅延などの問題が起きています。各種の乳幼児食が市販されているものの、誰もが入手し易く、しかも科学的根拠がある乳幼児食は非常に少ないのが現状です。
 2004年11月にILSI CHP、ILSI CHP JapanとILSI Southeast Asia Regionが主催したマニラでのワークショップには、4カ国(中国、ベトナム、インドネシア、フィリピン)の代表が出席し、各国で必要とされる、あるいは計画している乳幼児食について報告し、アジア全体として、乳幼児食の調査・研究、栄養教育プログラムへの取り組みについて幅広い議論が行なわれました。
 ILSI CHP Japanでは、各国からの提案を総括し日本の技術を応用して、アジアの食生活に則した科学的根拠のある乳幼児食の開発に協力していきます。
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